2019年以降大きな法改正の予定や決定
債権法改正
これまでの債権法(契約法)は,約120年前に現行民法が制定された時のままの内容でした。
そのため,①現在の契約を取り巻く社会経済の変化に対応していませんでした。また,②約120年間の間に,判例などが解釈を通じて多数のルールが作られましたが,条文上はそのルールが不明瞭でした。これらの理由から,社会経済の変化への対応と,ルールの明確化のために,債権法の大幅な改正が行われることとなりました。
具体的な改正のポイントは以下のとおりです。
1.約款規定の新設
現在多くの契約において「約款」が利用されていますが,民法上「約款」についての規定は存在していませんでした。また,消費者契約法において,消費者にとって不利な契約条項を無効とする規定は存在しますが,「約款」という取引形態に即した条文ではない上,そもそも消費者契約法の対象が,事業者と消費者の取引に限定されているため(事業者と事業者の取引には適用されません。),使い勝手の悪いものでした。
そこで,本改正において,まず「定型約款」という概念を設け,定型約款が契約の内容になるための要件,定型約款の内容の表示(開示)に関するルール,不当条項・不意打ち条項規制に関するルール,約款を相手方との合意なく変更するための要件などを定めました(改正法 548条の2~ 548条の4)。
2.売主や請負人の担保責任
購入した商品が個性に着目した物(特定物)であった場合,買主は契約に反する不具合を購入した後に発見しても,買主がとることのできる手段は,規定のうえでは不明確なところがありました。
また,例えば建設会社に住宅の建築を注文したけれど,その建物に契約に反する不具合があった場合など,請負に関するルールにも,不明確な部分や合理的でない部分がありました。
そこで,本改正において,売買や請負において,引き渡された物が契約で予定された品質や性能を欠いていた場合(契約不適合)の規定を整理し,追完請求権, 代金減額請求権,解除権,損害賠償請求権などを,その要件も含めて明確化しました(改正法 562 ~ 564条,559条)。
3.賃貸借における敷金ルールの明文化
家や部屋を借りたときに大家や管理会社に預ける「敷金」は,基本的に,家賃の滞納分や,借主(賃借人)の不注意が原因で必要になった修繕費などの支払いに充て,残った額は返還されるというものです。特別な合意(特約)がなければ,通常の使用による損耗や経年変化などの修繕は,賃貸人の負担で行います。 このような敷金に関するルールは,判例によって明確化されたものであったため,現行法には原状回復の具体的範囲や敷金に関する規定は存在していない状態でした。
そこで,今回の改正で,退去時の賃借人の原状回復義務には,通常損耗などは含まれないことや(改正法 621条),敷金に関する原則的なルール(改正法 622条の 2)の明文化が行われました。
4.消滅時効規定の見直し
現行法では,債権の消滅時効の期間について,原則的には10年としながら,業種ごとに短期の時効期間が細かく定められていました。しかし,複雑であるばかりでなく,今日の社会ではこのような区別の合理性も見いだしにくいものとなっていました。
そこで,今回の改正では,債権の原則的な時効期間が整理され,債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年,権利を行使することができる時(客観的起算点)から 10年で統一されました(改正法166条1項1~2号)。
ただし,例外として,不法行為による損害賠償請求権については,原則として主観的起算点から3年,客観的起算点から20年とする従来の規定が維持されています(改正法724条1〜 2号)。また,債務の不履行であれ不法行為であれ,生命・身体への侵害による損害賠償請求権については,その法益の重要性にかんがみ,一般の時効期間より長く,主観的起算点から5年,客観的起算点から20年とする特則が設けられました(改正法 167条,724条の2)。
5.保証ルールの見直し
従来,「個人保証」をめぐるトラブルは後を絶ちませんでした。保証人には,そもそも保証を引き受ける時点で,主たる債務者の返済能力等,その保証のリスクに関する十分な情報が与えられていないことも少なくなかったためです。2004年には,民法の保証に関する規定の一部改正が行われ,書面を要件としたり,特にリスクが高い貸金等の「根保証(継続的な取引から生ずる不特定の債務をまとめて保証すること)」について一定の制限を設けたりするなどの対策が講じられましたが,いまだ十分ではありませんでした。
そこで,今回の改正で,根保証に関するルー ルの対象を個人根保証契約に広げて徹底することや,保証人に対する情報提供のルールを設けること,事業のための債務について個人が保証人になるときは公正証書要件を課すことなど,保証に関する新たなルールが設けられました (改正法465条の2~ 465条の 10)。
6.変動法定利率の採用
利息が生ずる場合において当事者間で利率について合意をしていなかった場合や,法律の規定に基づいて発生する利息(法定利息)の利率については,「法定利率」として,年5%が適用されます。(商法では,商事法定利率について年6%とされていました)。しかし,経済情勢の変動とそれに伴う市場金利の変動にもかかわらず,常に5%という固定的な利率を適用することは合理的ではありません。
そこで,今回の改正では,法定利率について 固定制を廃止して,3年ごとの「変動制」を採用することになりました。また,商事法定利率の特則も廃止し,統一的な利率が適用されることになりました。改正法が施行する時点では,年3%でスタートする予定です(改正法404条)。
相続法改正
超高齢社会といわれる現在の社会状況に対応するため、相続法が約40年ぶりに大きく見直されました。
具体的な改正のポイントは以下のとおりです。
1.配偶者居住権の新設
(1) 配偶者居住権
配偶者居住権とは、相続の開始時に被相続人の持ち家に同居していた配偶者は、終身にわたってその自宅に無償で住み続けることができるとする権利のことです。
自宅を不動産所有権という1つの権利にしてしまわずに、「所有権」と「居住権」という2つの権利を分けることで、評価額の低い「居住権」を配偶者が取得しながら預貯金など他の財産も相続しやすくなりました。
配偶者居住権は、遺言書による贈与があった場合、または遺産分割により取得する必要があります。
(2) 配偶者短期居住権
配偶者短期居住権とは、相続の開始時に被相続人の持ち家に無償で同居していた配偶者は、遺産分割が確定するまではその自宅に無償で住み続けることができるとする権利のことを言います。
配偶者居住権との大きな違いはその「期間」で、相続開始直後から始まり、最短でも6ヶ月間は配偶者短期居住権にもとづいて自宅に住み続けることができます。
2.特別寄与料制度
特別寄与料制度とは、被相続人の相続人ではない親族が、無償で、療養看護などを行なった場合は、その親族は相続人に対して金銭を請求できる制度のことです。
ただし、法律婚を前提としているため、被相続人の内縁の配偶者や連れ子、または被相続人の長男の内縁の妻などは対象とならないことに注意してください。
また,相続人の場合は、現行法において、「被相続人の事業に関する財産上の給付」による場合も寄与分を主張し得ますが、相続人以外の場合は、「被相続人の事業に関する財産上の給付」で特別の寄与があっても、特別寄与者とは認められません。
3.遺産分割前の払戻制度
この制度は、生活費や葬儀費用の支払,相続債務の弁済などの資金需要に対応できるよう,遺産分割前であっても一定金額までなら、相続人が金融機関の窓口で直接払い戻しを受けることができるという制度です。
(上限額の算定方法)
相続開始時の預貯金債権の額(預貯金残高)×1/3×仮払いを求める相続人の法定相続分
4.自筆証書遺言の方式緩和と保管方法
改正後は、財産目録を別紙として添付する場合、その目録については自筆である必要はなく、パソコンなどで作成することもできるようになり、自筆証書遺言が利用しやすくなりました。
また、自筆証書遺言の原本を法務局に保管できる制度が新設されますので、紛失のリスクを回避したうえで、相続開始後に遺言書の存在の有無やその有効性をめぐる争いなどを軽減することができます。
5.特別受益の持ち戻し免除の意思表示の推定規定
これまで、被相続人が生前に配偶者に対して自宅を贈与していた場合、遺産分割の計算上は原則として「遺産分割の計算の対象に含める」ことになっており、その自宅以外の遺産分割を十分に受けられないため、配偶者にとっては不利な扱いと言えました。
改正後は、結婚して20年以上経つ夫婦間において、配偶者に自宅が贈与(または遺贈)された場合、その自宅は特別受益の対象外、つまり「遺産分割の計算の対象に含めない」ことになります。
これによって、自宅を贈与された配偶者は、より多くの遺産分割を受けることが可能になりました。
6.遺留分減殺請求の効力等の見直し
これまで、遺留分(法定相続人に認められる最低限の財産の取り分のこと)を侵害された人が、遺留分を求める請求をした場合、財産そのもの=現物で返還することが原則とされてきました。
しかし、これでは不動産の所有権などで複雑な共有関係が生じてしまうため、不便な面も多かったのが事実です。
改正後は、遺留分を侵害されている部分に相当する金銭支払いを請求できるようになったため、請求者はより利用しやすく、その後の処理も簡便になったと言えるでしょう。
7.相続の効力等の見直し
これまで、相続人が不動産などの財産を取得してその登記をする前に、他の相続人がその不動産の売却契約を第三者と結んでしまったような場合、その第三者に本来の所有権を主張するために必要な要件(対抗要件と言います)は、財産の取得方法によって取扱いが違っていました。
改正後は、財産の取得方法にかかわらず、すべて登記や登録などの手続きが必要となります。これは、相続人が便利になる改正ではなく、相続財産を購入する第三者側に配慮した内容です。